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ベネズエラのスーパーバンド、グアコについての解説記事の後編です。
グアコ Ψ  解説<1>についてはこちら!

第3期(1986~1992) テクノへの傾倒と新たな方向性の模索

こうして黄金期を迎えたグアコであったが、すぐに苦しい状況に追い込まれてしまう。黄金期を作り上げたボスカンとエルナンデスの脱退である。アイドル歌手と座付き作曲家をなくしたグアコは方向転換を余儀なくされる。そこで初めて、レーベルの意向を受けて外部プロデューサーを迎え当時のアーバンポップの流れに沿い、テクノ化の道へ進む。

Zapatero(1987、作曲ネギート・ボルハス)
(この頃からマンボが、エルナンデス編曲時のホーンの派手な吹き回しと変わって、高音の不協和音とスタッカートによる短いフレージングに変化していく。ボーカルはネルソン・アリエタ。第3期、4期を支える重要ボーカリスト)
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ネルソン・アリエタ

 

 

そこからが面白い。グアコは楽曲も外注するようになるのだが、その外注相手こそ、ガイタのライバルバンド“グラン・コキバコア”(グアコ第1期のところで先述)の音楽監督ネギート・ボルハスである。ボルハスは当時ベネズエラ国内でヒット曲を何曲も連発し、超売れっ子作曲家であった。
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ネギート・ボルハス


La gaita de molero (1988年グラン・コキバコア、作曲ネギート・ボルハス)
(上はネギート・ボルハス作曲、グランコキバコアによる当時のガイタのヒット曲)

そして、このネギート・ボルハスが作曲したグアコの曲が次のものである。

Preguntale a carruyo(1987年 グアコ、作曲ネギート・ボルハス)
(まんまグラン・コキバコアである。グアコのアイデンティティの危機!)

第3期のグアコは「迷走期」であったのかもしれない。この時サルサ市場は低迷し、グアコはメレンゲやカリプソといったジャンルの音楽も録音した。旧作リメイクも多くなった。ガイタの季節性に捉われることなく、年間を通して活動できるようになる必要があった。[1]

90年のガイタシーズン手前にグアコはレーベルを電撃移籍し、拠点をカラカスに移す。そして1991年録音のアルバムを最後に、グアコはガイタ・スリアーナの録音を断絶してしまう。「季節性を払拭するための苦渋の決断」[2]であったのだ。

Cuatro estaciones(1988年、 ネギート・ボルハス作曲)
(当時、人気を集めたメレンゲを取り入れた一曲。これもネギート・ボルハス作曲。)

 

Welcome to Callao (1987)
(ベネズエラ、カジャオのカーニバルも取り入れた!)

ところが、苦しい時代を過ごしたグアコに一つの光が差し込む。グアコに新しい道を指し示す才能が加わるのだ。

第4期(1993~2004)チャシンの加入と第2次黄金期

1990年録音 “Amor de camino”
1991年録音“Yo no eres tú”(変わっちまったお前)


Yo no eres tú (1991)

上の2曲を作曲したホルヘ=ルイス・チャシンがグアコの中で評価され、2代目座付き音楽監督として1993年にグアコに加入し、ここからグアコは第2の黄金期を迎えることになる。
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ホルヘ=ルイス・チャシン

 

グアコはこの第4期において、ジャズ、ファンク、そしてスペイン語ロックの指向を強めながら、印象的で美しいサルサ・バラーダ調の曲を作り上げていく。「「うた」として圧倒的な力を持つチャシン作品はバラード風サルサが市場拡大しはじめたこの時代によく合った」[3]のだ。チャシン作曲の曲は次々とヒットを飛ばす。


Todo quedó quedó(1993)
(サルサピアノのシンプルな響きを純粋に活かした伴奏と、そこに色を付けるシンセサイザーとエレキギターが心地よいアクセンントになっている。)

この時期、もう一つ大きな出来事が起こる。1995年発売のアルバムArchipiélagoに収録されている「No la juzgue」「Como es tan bella」にて、あのネギート・ボルハス(先述)の甥にあたるルイス=フェルナンド・ボルハスが、叔父の楽団には目も向けず、グアコの歌手としてデビューを果たすのだ。

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ルイス=フェルナンド・ボルハス

No la juzgue (1995)
そしてこのアルバムにはチャシン作曲の大ヒット曲「¿Cómo será?」が収録されている。

¿Cómo será? (1995)
映像は2012年にホルヘ=ルイス・チャシン自身がライブで歌っているもの

第5期(2005~現在)  新たなる模索へ

グアコ第2黄金期を作りあげたチャシンは独立し、グアコは再び新たな道を模索することとなる。グアコはどこへ向かうのか。石橋は、その一つの方向性としてガイタデタンボーラのルーツであるアフロ系太鼓「チンバングレ」を見つめ直し、その複雑なリズムと今まで培ったポップ性を兼ね備えた新たな音楽の構築を目指し始めたと言う。[4]

それがわかるのが2005年に発表された「Si fuera tu bailo conmigo」である。


Si fuera tu bailo conmigo(2005)

この動画の最初の部分で聞こえてくるアフロ太鼓の音が聞こえてくる。これこそ「チンバングレ」である。このチンバングレの太鼓をベースにその上にサルサ、ファンクのミックスしたメロディが流れている。間奏やブレークで時折見せるアフロ太鼓のリズムが、この曲の根底を流れるアフロのリズムの動きを思い出させてくれる。

近年大ヒットした「Vivo」(2012)と「Baja」(2015)はどうであろうか。サルサのノリは薄れ、リズム、メロディの作り方は現在カリブ諸国で人気のあるレゲトンにかなりよってきている。

Baja(2015)

結成から58年という時間を経てグアコは、流行の移り変わり、メンバーが入れ替わりという時代の変化という圧力の下、絶えず変化を繰り返してきた。

グアコ最古参、グスタボ・アグアドは石橋とのインタビューでこう答えている。

——さまざまな音楽を取り入れながら革新を続けてきたグアコにとってイノベーターであるとういことは基本スタンスなのですか?

G もちろん。私の座右の銘は「時とともに駆けない騎手はみずから墓標を刻む」。「現状不満足」がグアコの合言葉だ。ルーティンとマンネリが大嫌いなんだ。音楽ビジネスには後退は許されない。同時代のどの音楽の模倣でないサウンド作りが可能なのは、どんなジャンルでも演奏できるベネズエラ人ミュージシャンの柔軟性によるものが大きい。

『Latina』(2016年9月20日号)[5]

絶え間ない革新の繰り返しこそグアコの本質だと言えるだろう。

ただ変わらないものもあると思う。それはタンボーラの存在だ。曲調がサルサになろうが、ファンクになろうが、グアコの音楽には、きまってガイタの伝統的な太鼓タンボーラの存在があった。あのバチを弾くときの軽やかに響く高い音はグアコのどの曲にも感じることができる。さらに嬉しいことに石橋とのインタビューにてグスタボ・アグアドは「次回作では久々にガイタを入れようと考えている。」と答えている。[6]グアコはそのルーツを忘れてはいないのだ。
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タンボーラ

 

2014年には若干27歳のディエゴ・ロハスが、そして2016年にはアメリカ生まれのマーク・メレンデスのボーカル二人がメンバーとして加わり、新たな時代の波にのるべく動き出した。目指すは世界市場の確立である。

今後はもっと短いスパンで世界は変化し、それに伴い流行も人も必ず変わって行くであろう。しかし、グアコの中に変化を恐れないイノベーターの精神がある限り、グアコは続いて行くのだ。そしてその時も、私たちをあっと驚かせ、魅了する音楽をきっと作ってくれるに違いない。

 

 

 

(文 田中)

 

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[1]石橋純(2016)「ベネズエラのスーパーバンド《グアコ》初来日 老舗アヴァンギャルドの全容」『LaTina』2016年8月20日号、pp.30、ラティーナより

[2] 石橋純(2016)「ベネズエラのスーパーバンド《グアコ》初来日 老舗アヴァンギャルドの全容」『Latina』2016年8月20日号、pp.30、ラティーナより

上記記事によると、92、93年にグアコによるガイタ・スリアーナの伝統曲を集めた「Guaco clásicoⅠ」と「Guaco clásicoⅡ」が制作されている。

[3]石橋純(2016)「グアコ来日直前インタビュー 最古参グスタボ・アグアドに訊く」『Latina』2016年9月20日号、pp.38-41、ラティーナ

[4]石橋純(2016)「グアコ来日直前インタビュー 最古参グスタボ・アグアドに訊く」『Latina』2016年9月20日号、pp.38-41、ラティーナ

[5]石橋純(2016)「グアコ来日直前インタビュー 最古参グスタボ・アグアドに訊く」『Latina』2016年9月20日号、pp.38-41、ラティーナ

[6]石橋純(2016)「グアコ来日直前インタビュー 最古参グスタボ・アグアドに訊く」『Latina』2016年9月20日号、pp.38-41、ラティーナ

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