8月22日は蒸し暑い日になりそうだった。いつもの半袖シャツに手を伸ばしかけてから、ふと思い立ち、真っ白い長袖のシャツを手に取った。粋な男を送り出す宴には、それがよりふさわしいと思ったからだ。

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ラ米ゼミの9回目となる成果発表コンサートが大成功に終わった翌々日、駐日ベネズエラ大使館文化担当官であり、ラ米ゼミ立ち上げ時からのコーチであるモリス・レイナに突然の帰任辞令が下った。あまりにも唐突なその知らせに、私たちは途方に暮れるほかなかった。

モリスは、日本におけるベネズエラ音楽の普及と発展に誰よりも尽くした男だ。石橋純が立ち上げたラ米ゼミにコーチとして9年間関わり、これまで送り出した修了生は200名近くに及ぶ。私は第一期生として教えを受けたが、それからずっと、彼は私にとって偉大なる師であり、粋な男であり、「しょうもない」オヤジであり、尊敬できる友人であった。

彼は一流の演奏家だった。独自のチューニングによるクアトロ独奏のパイオニアである父フレディ・レイナの流儀を引き継ぎ、ラ米ゼミやEKのコンサートの度にその演奏を聴かせてくれた。彼自身の演奏は高い技術に裏打ちされたものであったが、「音楽は技術ではなく、心で奏でるものだ」と語るその精神は、彼に教えを受けた者なら誰もが引き継いだことだろう。

第 9回成果コンでクアトロ独奏を披露するモリス(撮影:漢那朝子)

そして何より、彼はいつでも最高のパランデーロ(パーティピーポー?)だった。素晴らしい音楽で、しょうもないダジャレで、どんなパーティも自分のものにしてみせた。「粋」を全身で体現するような男だった。

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モリスを送り出すパランダは、8月 22日、駒場近くの音楽ダイニングORBで盛大に行われた。EKが幾度となく打ち上げでお世話になってきた場所である。

パランダには、久しぶりの顔から最近EKとなったばかりの9期生まで、幅広いEKメンバーが一同に会した。ある者は仕事の合間を縫って、ある者は帰省を遅らせて、みんながモリスに感謝の気持ちを伝えに来た。残念ながら物理的にその場にいることができなかった人たちも、ビデオレターやメッセージ、それぞれの形でモリスに気持ちを伝えた。

メキシコからビデオレターを送ったメンバーも

帰国するモリスへの記念品として、スシのレシピ本、花束、そしてお手製の寄せ書きパネルが送られた。パネルにはかわいらしいモリスの似顔絵が描かれ、本人も大いに驚き、そして喜んでくれたようだった。

モリスに送られたパネル。右下にはかわいらしい似顔絵が

宴の後半からは演奏モードに突入し、彼から教わった曲、彼と一緒に演奏した曲を中心に、次々とEKメンバーによる演奏が繰り広げられた。幕開けナンバーのCarnavalについて、個人的な思い入れを語ることを許していただきたい。普段からこの曲は、石橋純から名刺代わりに授けてもらったオリジナルの歌詞で歌っているが、この日はいつもにも増して言葉に気持ちを込めざるを得なかった。

Y a la música venezolana
me inicié con Jun Ishibashi a dedicar
Y el gran maestro Maurice Reyna
es quien me enseñó el cuatro a tocar

ベネズエラ音楽は
石橋純に授かった
そして偉大なるマエストロ、モリス・レイナこそ
俺にクアトロを教えたその人

この曲が終わったあと、私はモリスに駆け寄って感謝の言葉を伝え、ハグをした。拙い言葉でどこまで伝わったかは分からないが、そうせずにはいられなかったのだ。

モリスに捧げる演奏

EK新旧メンバーにより、次々に演奏は続いていく。この団体が積み重ねてきた9年の歴史に思いを馳せるとともに、モリスが私たちに蒔いた種が、確かに実を結んでいることを改めて感じた。

EKメンバーによる演奏

宴が進むと、モリスが返礼としてBrizas del ZuliaとEl Gavilánのクアトロ独奏を披露してくれた。EKメンバーの演奏の時は賑やかだった会場も、この時ばかりは、モリスの紡ぐ一音一音を聴き漏らさまいと一丸になっていた。

モリスのクアトロ独奏

最後は全員でAmalia Rosaを大合唱し、宴は幕を閉じた。

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モリスが私たちに残してくれたものは、それこそ数えきれないだろう。素晴らしい音楽そのものはもちろん、音楽に対する姿勢、粋な振る舞い、陽気な人柄、一人一人それぞれに受け取ったものがあったはずだ。あるメンバーの表現を借りるなら、彼はEKにとって父であり、兄弟であり、そして陽気なオジイチャンであった。

モリス、あなたは来年の第10回成果発表コンサートに来てくれると言ったね。その言葉を楽しみに待っているよ。もしそれが叶わなくても、それが日本になるか、ベネズエラになるか、LAになるか、それ以外のどこかになるかは分からないけど、一緒に音楽を演奏して、そして宴を楽しむ時が再び訪れることを、心から楽しみにしています。

モリス、9年間本当にありがとう!
¡Chao! マタアイマショウ。

最後に集合写真
EK一同からのプレゼント
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