2014年11月3日、駒場友の会と教養学部ピアノ委員会が主催する「第16回駒場友の会演奏会(於:東京大学駒場キャンパス)」が開かれました。この演奏会では、ベネズエラ出身のプロユニット「Trío Aldemaro Romeroトリオ・アルデマロ・ロメロ」が、120人収容の会場を満席にして、ベネズエラのラテンジャズを演奏しました。このトリオは、ベネズエラ音楽を語る上で忘れてはならない偉大な音楽家アルデマロ・ロメロ(1928-2007)の名を冠し、アルデマロが遺した作品を“弾き”継いでいます。

コンサートで演奏するトリオ・アルデマロ・ロメロ
コンサートで演奏するトリオ・アルデマロ・ロメロ

 私たちエストゥディアンティーナ駒場は、このイベントの準備や進行、前座演奏に参加しました。本公演前には、トリオの皆さんが私たちのために2時間にわたってワークショップを開催。私たちは、ベネズエラ生まれのラテンジャズ「オンダヌエバ」のエッセンスや巨匠アルデマロの曲の秘話を、アルデマロその人と演奏を共にしてきたトリオのメンバーから直に伺うことが出来ました。

オンダヌエバとは、ベネズエラ伝統のホローポにジャズとボサノヴァの要素を組み合わせて、アルデマロが創ったリズムです。独特のスウィング感があり、「ベネズエラ流ボサノヴァ」として知られるようになってきました。

そのオンダヌエバの魅力にライブで接した充実の一日――その体験記をどうぞ。

(M. O)

Onda nueva がくれたもの

私はトリオ・アルデマロ・ロメロによるオンダヌエバのワークショップで、アルデマロ・ロメロの代表曲”De repente”(「突然に」)のソロ歌手を務め、クリニックを受けました。音楽監督の有賀さんから打診があり、サンプル音源を聞いてみたところ、大人の雰囲気が漂う曲調で、「私の得意分野ではないな。なぜ頼まれたのだろう」と思いました。しかし、私の歌唱力を評価していただいて嬉しかったことに加え、いろいろな曲を歌えるようになりたいという思いもあり、挑戦することにしました。

 オンダヌエバのリズムは私にとって馴染みのないもので、はじめは手を叩きながら歌ってもリズムに乗れず、感情も込めたり歌い方に変化をつけたりする余裕もありませんでした。ワークショップの日は刻々と迫り、後には駒場音楽祭も控え、不安は募るばかり。他のメンバーが指導を受けるオンダヌエバの曲、”Carretera”(「街道よ」)と”Sueño de una niña grande”(「大きな女の子の見る夢」)が仕上がっていくのを聞き、「結局完成せず、ワークショップや駒場音楽祭から降板させられるのではないか」と思うことすらありました。

 音源の聞き込みと石橋先生とのマンツーマン練習を経て迎えたワークショップ当日。まだ納得していない自分の歌を改善するヒントを頂くつもりで臨もうという気持ちと、どうせ歌うならトリオのレクチャーコンサートの前座を務めたいという気持ちの両方がありました。最初はトリオの演奏でした。弾き始めるなり、大学の一実習室がおしゃれなコンサートホールに変わってしまったような印象で惹きつけられました。

Gustavo Carucí グスタボ・カルシ(ベース)
Miguel De Vincenzo ミゲル・デ・ビンセンソ(ドラム)Pedrito López ペドリート・ロペス(ピアノ)
左:Pedrito López ペドリート・ロペス(ピアノ)、
中央:Gustavo Carucí グスタボ・カルシ(ベース)、
右:Miguel De Vincenzo ミゲル・デ・ビンセンソ(ドラム)

 続いて、私たちの”De repente” の演奏です。プロの演奏の直後に、しかも彼らの目の前で歌うなどということは人生初だったので、膝が震えるほど緊張しました。ところどころリズムから外れてしまいましたが、なんとか歌いきりました。感想を求められましたが、緊張に加え、英会話が苦手なこともあり、「I was so nervous…」と言うので精一杯でした。トリオにどんなダメ出しをされるかとびくびくしていましたが、第一声が「踊りたくなったよ」だったのでほっとしました。「アルデマロは自分のメロディーに忠実に歌う人が好きだったから、あなたの歌を聞いたら満足しただろうね」と言われ、アルデマロ・ロメロの存在を身近に感じました。さらに、「波のようなリズムで歌うとよい」とか、「もっと自由に演奏してよい」などといった明快なアドバイスもいただき、気が楽になりました。私はこの時点でできる最高のパフォーマンスをしたつもりでしたが、前座には選ばれず、かなり悔しかったです。しかし、トリオによる本番のコンサートで、ベーシストのグスターボが歌うダンディな”De repente” が聞けたことは刺激になりました。

トリオをお招きして催したパランダ(ベネズエラ流の音楽のあるパーティー)において、”Moliendo café” (「コーヒー・ルンバ」)で共演するという、ワークショップ中には叶わなかった夢が実現できたことも素晴らしい思い出です。

 来日の遅れにより、駒場でのイベントには間に合わなかった女性歌手カルメラ・ラミレスの歌声を聴くために、11月14日のBlue Note Tokyoでのトリオのコンサートにも足を運びました。彼女の声色の多さと感情表現の豊かさに圧倒されるとともにボーカルアレンジのヒントもつかみました。楽器隊もアドリブ満載で息つく間もないステージでした。さらに私が感動したのは、日本の童謡「ふるさと」のオンダヌエババージョンが披露されたことです。私たちもオーディエンスに合わせてコンサートプログラムを考えなければならないと気づかされました。

ワークショップから約3週間後の駒場音楽祭でも”De repente” を歌わせていただきました。先輩方の演奏と美しい照明、そして何よりトリオの言葉に支えられて、感情を込めて気持ちよく歌うことができました。

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 今回オンダヌエバを歌って、まずは曲のジャンルに真剣に向き合って特徴をつかみ、それから自分らしく自由なパフォーマンスを追求するという、音楽に関わるときに大切な姿勢の一つを学ぶことができました。さらに、トリオ・アルデマロ・ロメロと交流したことで、音楽が国籍や言語、プロかアマチュアかといった境界を超える可能性を持っていることも感じられました。

(M. K)