心地よく響く旋律がお洒落な雰囲気を醸し出し、ふと口ずさんでみたくなる。ベネズエラ音楽の中でも高い人気を誇る「onda nueva」ですが、それが一体何物であるのかを説明するとなると困ってしまう人は少なくないはず。というわけで、ここではその魅力に秘められた謎を探ってみましょう。

onda nuevaとは数あるベネズエラの音楽ジャンルのひとつであり、Estudiantina Komabaのレパートリーでは「Carretera」「La Bikina」などがこれにあたります。直訳の「新しい波」が意味する通り、1970年前後にAldemaro Romeroらによって提唱された「革新的音楽スタイル」です。国民音楽であるjoropoに、アフロ・カリビアン音楽の「スウィング感」を加え、さらにジャズのハーモニーを組み込むという彼ならではとも言えるアレンジが施されています。

では、「スウィング感」とは具体的にはどういうことでしょうか。これの対義語にあたるのが「スクエア square」で、ここでは「規則的な、予測可能な」という意味になります。裏を返せば、規則から外れた「ずれ」こそがスウィング感の正体であると言えます。joropoにおけるsquareは「ブンチャッブチャ」で、この循環によって曲が成り立っているのですが、onda nuevaは、ここに「ブチャブンチャッ」を組み込むことで「前後」の感覚を作り出しています。つまり、「ブンチャッブチャ」のリズムが半永久的に循環していくjoropoに対して、onda nuevaは「ブンチャッブチャ」「ブチャブンチャッ」のjoropo2小節分が一つの周期となるのです。

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onda nuevaの歴史を語る上で欠かせないのが、前述のAldemaro Romeroという人物です。1928年にベネズエラのバレンシアで生まれ、幼少期より音楽と親しみつつ暮らした彼は、20代の頃から、ダンスオーケストラのピアニストとして活躍方を象徴する音楽として位置づけました。さらに1950年代以降、joropoが都市大衆市場へ向けた商業的ジャンルとしての価値を獲得すると、本来の特徴である荒々しさや即興性は切り捨する傍らNYでメジャーレーベルのアレンジャーとしてStan Kenton、Machitoなど数々の大物ミュージシャンと交流を持ちました。また、後に自らラテン・ビッグバンドを結成し、カリブ海から北米、ヨーロッパに至るまで、世界各地での公演を経験しています。1960年代には活動拠点をカラカスに戻し、当時都市教養層にその価値を「発見」されつつあったjoropoに着目し、それに改編を加えた新リズムである「onda nueva」を提唱しました。伝統的なjoropoには存在しなかった2小節1周期のこのリズム形式は当時のベネズエラポピュラー音楽界に衝撃を与え、現在もベネズエラにおけるジャズに多大な影響を及ぼしていると言われています。

Aldemaro Romero
Aldemaro Romero

すでに触れた通り、onda nuevaの成立にはjoropoの発展が大きく関わっています。joropoはそもそも、素朴な和声で田園文物を歌うものとして認識されていましたが、20世紀初頭、都市部に住むエリートたちはこれを「国民精神の原郷」である平原地方を象徴する音楽としてjoropoを位置づけました。しかし1950年代以降、joropoが都市大衆市場へ向けた商業的ジャンルとしての価値を獲得すると、本来持っていた特徴である荒々しさや即興性は切り捨てられ、「都市好み」のjoropoが流通するようになります。こうした流れの中で、onda nuevaは生まれたのでした。

いかがだったでしょうか?今までなんとなく聞こえているだけだったonda nuevaの独特なリズムも、構成や成り立ち、その背景について知ることで、少し違った印象で届いてくるようになったのではないでしょうか。わずかでも知識を身につけることで、遠く離れた国の音楽もぐっと身近なものになります。ぜひともこれを機にベネズエラ音楽の世界に漬かりこみ、クアトロが奏でる極上のひとときをお楽しみください。

参考音源として、Aldemaro Romero亡き後、彼と長年競演してきたベテランたちによって結成されたグループであるTrío Aldemaro Romeroより、onda nuevaとして初めて録音された記念すべき一曲「El Aragüíta」をどうぞ。

執筆・岡根

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