2016年8月26日(金)~29日(月)にかけて富山県南砺市で開かれたワールドミュージックフェスティバル、「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド2016」にスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド実行委員会より招聘されました。今回は、27日のパレードならびに28日のガーデンステージに出演しました。

カルナバルを演奏中
カルナバルを演奏中

スキヤキパレード

「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド2016」、二日目の午後、福野駅からのびる約1kmの道沿いに地元住民がずらりと集まった。この祭りを見守ってきたおじいさんおばあさん、この祭りとともに育った父母、そしてこどもたち、観客のお目当ては地元小中学校の吹奏楽部や市民楽団だっただろう。エストゥディアンティーナ駒場(EK)は彼らの後の順番を待っていた。そしてEKの後ろにはスキヤキ常連の体育会系太鼓楽団、バッキバが控えていた。そして今にも雨が降りだしそうな空だった。雨が降れば音響システムは使えず、準備していた仮装も台無しで、そもそもパレードが中止になるかもしれない。EKはまちがいなく緊張していた。
 EKが演じるのは「カリプソ」と呼ばれる種類の音楽で、カーニバルのビートそのものだ。この音楽ではブンバックという大きな太鼓が複数組合わさり、二拍子の強いリズムを叩き鳴らす。EKはこのスキヤキ・パレードのために二台のブンバックを自家製作した。ベネズエラで製作を教わった学生を中心に取り組まれた、EK初の試みだった。
 また、本場の街カジャオのカーニバルを模して、隊列を彩る仮装隊をEK史上最大規模で用意した。おとぎの国のお姫さま、仏領カリブ風マダム、金鉱夫、どこかかわいらしい悪魔、そして全身黒色に塗られたメディオピントが見る者の目を楽しませる。とりわけメディオピントには何度でも驚かされるような圧倒的な存在感がある。こどもたちにとっては怖いお化けだったかもしれないが、「お金か?塗られるか?」という名が表すようにメディオピントはいたずら好きな愛すべきキャラクターである。ただしその特製の黒色粘液は水に弱く、不安の種のひとつはまさにこの「お化け」の弱点にあった。

パレード開始直前、スタート地点の福野駅前にてEK仮装隊。後列左から、お姫さま(ファンタシア)、仏領カリブ風マダム(マダマ)、金鉱夫(ミネーロ)、悪魔(ディアブロ)。前列には3人のメディオピント。
パレード開始直前、スタート地点の福野駅前にてEK仮装隊。後列左から、お姫さま(ファンタシア)、仏領カリブ風マダム(マダマ)、金鉱夫(ミネーロ)、悪魔(ディアブロ)。前列には3人のメディオピント。

 メディオピント以上の視覚的効果をもたらしていたのは、スキヤキ巨大人形隊であろう。これは、2014年のスキヤキ開催のワークショップ「モザンビーク巨大人形をつくろう!」で誕生した一体をきっかけにはじまったスキヤキのひとつの名物である。2015年にはメキシコ人アーティストによるデザインでさらに二体の巨大人形と髑髏ダンサーが制作された。そして今回2016年、これらの巨大人形に独自の音響装置を組み込むことに成功し、EKを聴覚的にも支えてくれたわけだ。
 幸いにも雨は降らず、パレードは順調に始まった。セシリア・トッドとバンドメンバーたちが飛び入り参加した。

セシリア・トッドとメディオピント
セシリア・トッドとメディオピント

 カリプソの音楽と仮装隊、巨大人形隊は想像以上の注目と歓声を集め、緊張や不安はすぐさま消えていき、一時間の行程はあっというまに終わった。行進中の記憶は、沿道に並ぶ人々の驚く顔と、喜ぶ顔、笑う顔で占められている。

パレード終了後、ゴール地点の「ヘリオスステージ」前での全体集合写真。最後列に巨大人形、最前列に髑髏ダンサーたち。
パレード終了後、ゴール地点の「ヘリオスステージ」前での全体集合写真。最後列に巨大人形、最前列に髑髏ダンサーたち。

 さてその夜、EKの男子学生たちがパレードの疲れを銭湯で流しあっていると、地元住民の男性が声をかけてきた。そして翌日この男性はEKの控室に差し入れを、応援の手紙を添えて届けてくださった。「スキヤキ」を支えてきた福野の人々の姿を実感し、強い感銘を受けた。
大渕久志 (東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻修士2年)

セシリア・トッドワークショップ

2016年8月28日、福野文化創造センターヘリオス内のEstudiantina Komaba (EK) の楽屋において、セシリア・トッド(ヴォーカル、クアトロ)、ヘスス・”チュイート”・レンヘル(マンドリン、バンドーラ)、ウィルメル・アルバレス(ギター)、ウィリー・マルティネス・マジョ(パーカッション)、エドウィン・アレジャノ(ベース)の各先生によるワークショップが行われました。EKは「Los grifiñafitos (ロス・グリフィニャフィトス)」、「Acidito (恋の酸っぱいしずく)」、「La gaviota (かもめ)」の3曲を演奏し、指導していただきました 。私は全曲でソロ歌手を務めました。

EKメンバーにクアトロを指導するセシリア・トッド先生
EKメンバーにクアトロを指導するセシリア・トッド先生

EKで活動し始めてから、様々な先生によるワークショップに参加してきましたが、この会にはひときわ強い思い入れがありました。というのも、何度となくCDやYouTube で音源を拝聴してきたセシリア先生に自分の歌を聴いていただく貴重な機会だったからです。

私たちの演奏を見つめる5人の講師陣
私たちの演奏を見つめる5人の講師陣

最初の曲、「Los grifiñafitos 」を演奏し終えて、先生からソロ歌に与えられたコメントは…「完璧」の一言のみでした。「Acidito 」を歌っても、「La gaviota 」を歌っても、「完璧」の繰り返し。日頃日本人にすらいろいろと指導されているので、そのときは困惑してしまいました。しかし、今はセシリア先生が「あなたにはこれからも積極的にベネズエラ音楽を歌い継いでいってほしい」というメッセージを込めてくださったのだと考えています。

もちろん、技術的なアドバイスもありました。特に「Los grifiñafitos 」で、サブのクアトロの調弦を1音ずつ下げることで、「大人数で楽しく歌う」雰囲気を出すこともある、というチュイート先生のご指導には目から鱗が落ちる思いでした。指導後、5人のアーティストによる「Tu Boca (君の口元)」と「El Porfiao (エル・ポルフィアオ)」のデモ演奏をお聞きしました。5人のパートが喧嘩しないながらも決めるところは決めており、気心の知れたメンバーの一体感が伝わりました。最後は講師と受講生とが一緒に「El venao (鹿のゴルペ)」を歌って終了しました。来る定期演奏会に向けて弾みがつくようなワークショップになったと思います。

「El venao」を歌うEKメンバーと先生方
「El venao」を歌うEKメンバーと先生方

工藤愛恵

演奏者は工藤愛恵(ヴォーカル)、小川雅貴(ヴォーカル、クアトロ)、古谷俊英(ヴォーカル)、村田翔平(ヴォーカル)、寺島一樹(コーラス)、藤井健太朗(コーラス)、林蛍都(パーカッション、コーラス)、韓智仁(クアトロ、マンドリン、ギター)、鈴木亮(クアトロ)、立花美幸(マンドリン)、山口集(ベース)、荷方なつみ(ベース)、河村佳萌(パーカッション)、豊田健(クアトロ)、牧野翔(パーカッション)、平居香子(パーカッション)。

ガーデンステージレポート

「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド2016」3日目である28日には本フェスティバルの舞台の一つであるガーデンステージに出演しました。飲食ブースの各屋台でお昼時を楽しむ国内外からのお客さんがステージを見にきてくださいました。まずは、「コーヒールンバ(Moliendo café)」で演奏を開始しました。次にベネズエラの国民的音楽ジャンルであるホローポから「エロルサの祭り(Fiesta en Elorza)」を演奏しました。

エロルサの祭りを演奏中
エロルサの祭りを演奏中

続いての曲「カルナバル(Carnaval)」ではマンドリンの先祖であるバンドーラの大迫力にお客さんも圧倒されたようで演奏後に大きな拍手をいただけました。続いては「ラ・ビキーナ(La bikina)」をベネズエラ音楽ジャンルの一つであるオンダヌエバ(onda nueva)のスタイルで演奏しました。次の曲では「マラカイを後に(Saliendo de Maracay)」を総勢17名のバックコーラスによる厚みのある仕上がりで披露しました。6曲目は「バレントン(El Valentón)」を女性歌手3人がそれぞれの個性を発揮しながら各々のパートを歌い上げ、さらに本曲から本場カジャオの街でのカーニバルの仮装隊で欠かせない悪魔のディアブロが登場し、会場を盛り上げました。そして迎えた最終曲ではお祭り音楽として用いられる音楽ジャンルであるカリプソ(calipso)から「グアヤナ・エス(Guayana es)」を演奏しました。熱気が最高潮に達し、楽団員・ディアブロ・お客さんがステージ下で一体の円となって曲を楽しみ、大団円を迎えました。

山口 集

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